タンザニアの映画 DARWIN’S NIGHTMARE その1
人は生まれる場所を自分で選択できない。私はたまたま日本に生まれた。そして今はフランスにいる。もしタンザニアのヴィクトリア湖のほとりに生まれていたとしたら、もうとっくに命は尽きていただろう。
昨晩、急にさそわれて見たドキュメンタリー映画DARWIN’S NIGHTMARE (フランス語題Le Cauchemar de Darwin)
で知ったタンザニアの現実はまさに地獄としか形容できないものだった。まったく予備知識もなく、ついていっただけだったが、見終わってからずっと頭から離れない。題名のように悪夢ならば目がさめれば終わりだが、人々の飢えには終わりがない。食べ物がなくて、毎日たくさんの人が亡くなってゆくのだが、その貧困の主な原因となっているのは、他の国から持ち込まれた巨大魚なのである。
もともとヴィクトリア湖は「ダーウィンの箱庭」と呼ばれるほどたくさんの生物が生息していた。湖のほとりに暮らす人々は魚を売れば十分生活できるお金を得ることができた。家族仲良く笑いながら暮らしていたのだ。もともといた魚は草食性のものが多く、藻を食べていた。そこに研究のためという名目でナイルパーチという魚が放流された。
それでも最初のころは、ナイルパーチを売ってひともうけできると喜ばれたくらいだった。加工するための工場ができて、そこで1000人の雇用も生まれた。ナイルパーチは飛行機で世界中に輸出され、フランスでも日本でも、そうとは意識せず食べているはずだという。(日本ではスーパーでの販売、ファミリーレストランで使用されるほかに、学校給食にも用いられている。)だがナイルパーチは肉食で、最大2メートル以上に成長する。この魚が食べつくしたせいで、ヴィクトリア湖にはほとんどほかの魚がいなくなり、藻などの植物が繁殖し湖は瀕死の状態なのだ。
そして、身の部分だけ加工され1日に500トンが箱詰めされる。残った頭や骨は販売されたり捨てられるのだが、その量が半端ではない。魚の残骸が大型トラックで郊外に運ばれる。それを焼却するには日に干してからのほうが都合がよいが、乾くまえにうじがわき、ガスが発生する。大きな鍋で腐った肉をゆで、油をかけて火をつける。真っ黒なヘドロとかわりはてたナイルパーチ。その作業に安い賃金で雇われているのは、もと漁師やその未亡人たち。異臭のなか、命を削る重労働が続く。両親を亡くした子供たちはストリートチルドレンとなるか、売春するしか生きる道はない。
以下その2につづく
参考資料
IUCN(国際自然保護連合)によるナイルパーチの影響
ナイルパーチは、1954年に、乱獲を原因とする固有種の漁獲量の激減を中和するために、アフリカのビクトリア湖に導入されました。この魚は、他の種を捕食したり、餌の競合を通して、200以上の固有の種を絶滅させました。ナイルパーチの肉は、他の魚よりも油が多いので、とらえたこの魚を乾かすのに、多くの木が燃料として切り倒されています。このために起こる浸食と排水は、流れ出す栄養分の量を増加させ、湖を、アオコとホテイアオイの侵入に無防備な状態にしてしまいます。これらの侵入は、湖での酸素不足をもたらし、多くの魚が死亡する原因となります。ナイルパーチの商業的開発は、地域の男女を伝統的な漁業や水産物の加工の仕事から立ち退かせてしまいます。この導入の影響は遠くまで及び、環境のみならず湖に依存している地域社会も荒廃させてしまいました。
ダーウィンの箱庭ヴィクトリア湖Tijs Goldschmidt著 1999 草思社
ナイルパーチの漁場ビクトリア湖の資源および環境保護 農林水産省
山釣り紀行の中にビクトリア湖の悲劇、ナイルパーチというエッセイがある。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 『グリーン・ナイト』 The Green Knight 映画レビュー(2023.01.21)
- my French Film Festival オンライン映画祭(2016.02.04)
- Les Souvenirs 愛しき人生のつくりかた 来年1月から全国ロードショー(2015.12.17)
- Beauties 美しい映画のオンライン配信はじまる(2015.08.10)
- 「世界の日本人妻は見た!」フランス・ブルターニュ編(2015.03.31)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
タンザニアについては宝石関連の話しか知らなかったのでちょっとショックです。
最近、環境保護に関しての話を良く耳にしますが、
そこには、人間の「現状では満足できない」と言う欲求が感じられます。
どのあたりで線引きをするのかの判断は、とても難しいですが。
投稿: kenpon | 2005.04.04 11:50
kenponさん。こんにちは。
全世界へ輸出しているナイルパーチ。それなのに国内の人が口にできるのは、頭と骨だけ。
それさえも買うお金がなく、死んでゆく人々。矛盾しています。
投稿: 市絛 三紗 | 2005.04.04 14:52
はじめまして、私も見てきました。トラックバックいただきます。
投稿: mir2004 | 2005.04.06 23:13
mir2004さん。
トラックバックありがとうございます。夏にタンザニアに行くそうですね。ぜひ、どうだったか教えてください。
私はエジプトとモロッコしか行ったことがありません。いつか行けるといいのですが。
投稿: 市絛 三紗 | 2005.04.07 02:45
三沙さん、コメントありがとうございました。今年のボジョレーはいかがでしたか。
ところで古い記事ですがリンクを張らせていただきました。この映画が来月日本で公開されます。渡りに船な記事を見つけたと思ったら、三沙さんの記事でした。詳細な解説、ありがたいです。
投稿: cyberbloom | 2006.11.20 08:58
こんにちは
その3のコメントにくわしく書いておりますが、この映画がとらえたのはタンザニアの一場面です。誇張がありすぎると批難している人もいることを付け加えておきます。
投稿: 市絛 三紗 | 2006.11.20 18:12