ひとつの選択
手紙を読み返すたび涙が止まらなかった。私にとってA氏の存在がどれほど大きなものだったのか、思い知った。そこにはこう書かれていた。
もう私のような「老人」にとっては「最後の幕」は上がってしまっているので、あとは残るscènesをどうdignementに生きるかだけです。
dignement(堂々と、立派に)という言葉はA氏の生き様にふさわしい。電話してみようと思ったがむしょうに怖かった。なぜならこれまでに家族や親友が癌でこの世を去っているからだ。癌という病気の気まぐれさはよく知っている。急に容態が変わったらと考えると苦しくてたまらない。
それでも思い切って受話器をにぎった。奥様が電話口にでられたので、「手術したと手紙で知った」と伝えると、「本人にかわります」というではないか。空白の数秒間、緊張したが、電話の声は元気そうだったので安心した。何をしゃべったのか、よく覚えていないが約束の本を書くためにブルターニュ西部へ行ってきたことを話した。A氏は出版業界は売れる本しか出さなくなってしまったと嘆いておられた。
今ならまだ間に合う。読みたいと待ってくれている原稿を読んでもらえるだろう。まだ取材できていないところも数ヶ所あるのだが、それも今月中に行けるだろう。これまで学んできたこと、体験したこと、ブルターニュへのすべての想いをこめて書き始めよう。山のような資料を読むことに専念するため、残念だがメールマガジンは今週でいったん終了させていただく。
人生の師との約束、期限を決めないと終わりそうにないので、すでに引き受けていることをできるだけはやく終わらせて一冊目を11月中に書き上げることにする。もう一冊の超大作は来年の夏には完成させたい。
写真はGoulven沖の砂浜。干満の差が激しく見渡すかぎり白い砂浜が続く。全く見たことのない風景だった。(画面中央に小さく写っているのは歩いている2人の人間)。
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コメント
以前一度メールを差し上げました、えみぞーと申します。
メルマガの打ち切り、市條さんの文章が好きで、なおかつ去年まで住んでいたレンヌの情報を得られるということもあって毎週楽しみにしていただけに大変残念です。
しかし、市條さんがこれから執筆されるという2冊の本もいずれ読めるのだろうと思うとそれもまた楽しみです。
これからはブログの更新を首をなが~くして待っていますね!応援しています。
投稿: えみぞー | 2005.09.14 20:41
えみぞーさん。こんにちは。
ブルターニュのことには違いないのですが、メルマガとは全く分野の異なる本なのですが・・・ フランス語の資料を読み終わってないので大変です。
投稿: 市絛 三紗 | 2005.09.14 21:53
そうでしたか・・・ お恥ずかしい。
ではまたいずれメルマガが再会されるであろうことを願っています。
投稿: えみぞー | 2005.09.15 17:56