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2006.02.14

パンドラの箱は開かれた

  フランスの新聞le Mondeル・モンドは2003年01月18日に「フランス政府はパンドラの箱を開けようとしている」と報じた。このあらゆる災いが閉じ込められた「パンドラの箱」とは国内に居住するイスラム教徒との摩擦を意味していた。それからこの言葉どおり、衝突は次第に頻繁になり、そして激しさを増している。

    フランス国内にどれだけイスラム教徒が暮らしているのかははっきりとはわからないが、300-500万人と推定されている。その大多数が穏健派でフランス社会に順応して共存してきた。近年になって敬虔な信者がイスラム教の戒律を遵守しようとしてトラブルが起きることが増えてきた。その一例が女生徒が公立学校でスカーフをかぶり続けることだった。1989年に女生徒が退学処分となってスカーフ着用の是非をめぐり当時大論争が起きたそうだ。

  なぜならフランスでは1882年に定められた法律があるからだ。「公立学校は宗教、思想、政治に中立であること」に違反したから当然退学にすべきというのが学校側の言い分だった。最終的に国務院は「スカーフ着用は可とするが、科学の実験や水泳などの授業では教師は着用を禁止できる」という判断を示した。

  それからもこの問題は国内のあちこちで繰り返され、教師が授業をボイコットするなど日本では考えられないような事態も起こった。そして2004年2月10日、その年の秋から施行される「公立学校における宗教的シンボル禁止法案」が圧倒的多数で可決した。

  この法案が実施される9月を前にしてイラクで外国人記者の拉致、拘束が相次ぎ、カタールの衛星テレビ、アルジャジーラは「スカーフ着用を禁止した法律を48時間以内に撤廃するよう仏政府に要求したビデオ声明」を放送した。だが政府は撤廃には応じず、人質になっていたフランス人記者2人は12月になって解放された。

   欧州憲法批准が05年5月に否決された時にも、その原因のひとつとして「欧州はキリスト教徒の集団であるからトルコの加盟に賛成できない」と答えた人が多くいた。同時に「フランス国内に内在する特にイスラム系の外国人がフランス人の職を奪っているからこれ以上の欧州拡大は望まない」という意見も聞かれた。

  11月にパリ郊外からフランス全土に広がった暴動でもイスラム系の移民問題が改めて浮き彫りにされたが(11月の記事参照)、これらは日本にあまり報道されなかっただけで、フランス各地で小さな小競り合いはずっと続いてきたのである。

  いったん開かれたパンドラの箱は、もう閉じることができないのか。互いに憎みあい殺しあうしか道はないのか。いや、ギリシャ神話のエピソードでは閉じることができた箱の底には最後にひとつだけ残っていたものがあった。それは未来を予知する災いだった。まだ起こらない未来を憂うよりも希望を語るほうがいい。今日は愛を語り合う日、バレンタインデーなのだから。

      参考

    欧州の他の国はフランスと状況が異なる。その詳細はイスラムのスカーフに対するヨーロッパ諸国の姿勢 (ル・モンド・ディプロマティーク)で。

  2003年3月19日に始まったイラク戦争は、4月半ばにバグダッドが陥落、5月1日にブッシュ大統領が「戦闘終結宣言を行ったが2004年になってもテロは収まらず、外国人が多数人質にされ殺害された。フランスの子供新聞からを参照。

移民問題の複雑化で90年代のことを書いたがこれも関連がある。

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コメント

始めまして。小林恭子さんの英国メディア・ウオッチからこちらにまいりました。よろしくお願いいたします。

在仏イスラム系移民の問題について、過去へさかのぼって説明してくださってありがとうございます。

こちらのページ、様々な情報とリンク、とても充実していて素晴らしいですね。フランスについて知りたいときにぜひ参考にさせていただきたいと思い、お気に入りに登録いたしました。

移民の問題やフランスの同化政策などについては日本では実感としてわかりにくいところがあり、さらに、過激な主張のほうが目立ちやすくて、日本のマスコミではヨーロッパの穏健な人たちの声がなかなか伝わってきません。在仏の方の生の声は、とても参考になります。

また時々これらの点について、書いていただけると嬉しいです。

投稿: lulumoon | 2006.02.15 01:12

はじめまして。

この前半部分は、03年に別のところに書いたことの要約です。長いので、ここに全部載せるのはやめました。

日本ではたいていの方がこの問題はこの数年のうちに急に表面化したと思っているでしょうが、長時間かかって徐々に蓄積してきたものです。

それに欧州といっても国ごとに差がありますから、ひとくくりにすることもできません。理解するのは非常にむずかしいです。

投稿: 市絛 三紗 | 2006.02.15 04:30

Bonjour de Paris.
先日はお電話ありがとうございます。接続悪くてー移動中でしたー切れてしまいましたね。

ケルト祭、楽しみですね。
またメールくださいませ。
パリより

投稿: banana | 2006.02.15 05:16

こんばんは

予定が重なり、パリのこのフェスティバル行けないかもしれません。今度いつ行けるやら・・・

投稿: 市絛 三紗 | 2006.02.15 08:12

市條さん、コメントありがとうございます。
そうですね。私も25年ほど前に初めて渡仏して、一月半ほどマルセイユの近くにいたときに、考えていたようなフランス人ではなくてアラブ・アフリカ系の人が多くて驚きました。それ以後もヨーロッパの各国で、国境を越えて様々な人が行き交って接触していること度々感じ、複雑な問題があることは推測してきましたが、やはり短期の旅では、そこで生まれ育ったり、移り住んで生活している人の内面的な価値観や感情までは、実際はどうなのか、なかなかわからないという思いがいつもしております。
また、旅人には見えないところでいろいろな人々が暮らしているのだろうともいつも思います。

投稿: lulumoon | 2006.02.16 11:30

今レンヌでは大学生が先週から大学を封鎖して授業がありません。雇用制度の改正に抗議しているのです。高校生も頻繁にデモをしています。

3年前には閉鎖が1ヶ月続きました。この時は大学の制度をEUと足並みを揃えようとすることに対する反発からでした。

それまでは大学の一部でストライキは行われていましたが、大学ごと封鎖することはなかったのです。真剣に勉強している人はその貴重な時間をなくすわけで、個人的には行き過ぎだと思っています。

国内にはこのような問題も起きているのです。

投稿: 市絛 三紗 | 2006.02.16 17:18

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受信: 2006.02.16 00:54

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