ルパンに食われた男、モーリス・ルブラン
Maurice Leblanc モーリス・ルブラン(1864~1941)という作家を知っているだろうか。私はこの作家が書いたルパンシリーズ56作品のほとんどを読んでいる。さらにモーリス・ルブランが亡くなってからボワロー・ナルスジャックによって書かれた続編の日本語訳も持っている。2005年はArsène Lupin アルセーヌ・ルパンが誕生してちょうど100年、新作映画も公開された。
最近寝る前に読み返しているが非常におもしろい。読み返すきっかけとなったのは友人がNHKの番組を録画したDVDだった。2年前にNHKで放送された世界・時の旅人「ルパンに食われた男」である。豊川悦司さんがフランスを旅してMaurice Leblanc モーリス・ルブランの足跡をたどるという趣向だった。
まず資料を探しに立ち寄ったのが新聞や雑誌などの膨大なストックを持つパリの古本屋、la Galcante ラ・ガルカントだ。いやはやここの陳列棚の美しいこと。1892年のものから購入できるというのだから驚きだ。地下にはすごい量の資料が眠っている。この本屋については改めて紹介したい。
そこで見つけた雑誌”Je sais tout”、「私は何でも知っている」というタイトルの大衆雑誌。ここにルパンシリーズが掲載されたのだ。上の写真はノルマンディー地方、Etretat エトルタのLe Clos Arsène Lupinで購入した3枚の絵葉書だ。それから”Promenades en Normandie avec Maurice Leblanc et Arsène Lupin”の作者、Gérard Pouchain ジェラール・プシャンさんと話をする。知らずに見ていたのだが、プシャンさんは偶然にもパリに住む友人のお父さんだった。
モーリス・ルブランは、はじめは読みきりのつもりだった。しかもタイトルは”L'arrestation d'Arsène Lupin” 「ルパン逮捕」。友人である編集者のたのみを聞き入れしぶしぶ書いたのが世紀の大泥棒ルパンだったのだ。そんな偶然から生まれたルパンは熱狂的に大衆から愛された。そのあざやかな手口と血を流さない紳士的なふるまいで、ヒーローのごとく支持されたのである。燕尾服とシルクハットで華やかな社交界を舞台に盗みを働くイメージが強いが、改めて読んでみるとまだ稼ぎが少ないころはその格好も垢抜けしない。
そのあまりの人気にモーリス・ルブランは連載を続けることになる。金銭的にはうるおったものの、ずっと目指した純文学でフランス文学史に名前が出ることはなかった。皮肉なめぐり合わせだ。そして晩年はルパンを恐れ厳重に戸締りをしたほど、その作品に振り回されることになる。
これだけおもしろい作品がフランスでは有害図書に指定され、子供達の目にふれることはなかったのだと番組の中で知った。フランスの教育はあまりにクラシックすぎる。大学の現代文学専攻でもラテン語が必須科目なのだから・・・ ルパンでもハリー・ポッターでも、本に興味を持って読むことが大切なのではないだろうか。
参考資料
Le Clos Arsène Lupin Maurice Leblanc モーリス・ルブランが晩年を過ごした家。彼が使っていた机も残っている。家の中にはルパンの部屋もあって変装道具や盗んだコレクションなども置かれている。売店ではどれもこれも欲しくなったのだが、購入したのは上記の絵葉書きと、ジョルジュ・デクリエール監督のテレビドラマシリーズのDVDを2本だけだ。
ルブランのルパンシリーズ 寝ようと思いながらつい読んでしまう文庫本
ルパンの映画・テレビ デクリエール監督のテレビドラマもあり
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