ゲランドの塩
ここに一冊の本があります。ゲランドの塩物語―未来の生態系のために (岩波新書)というタイトル。塩をつかった料理方法でも書いてあるのかと思い手軽に読みはじめました。ところが、はじめから狂牛病、農薬汚染、遺伝子組み換え食品、戦う農民José Bové ジョゼ・ボヴェの物語が続きます。
これは寝ころんで読む本ではないと思い、机の前に座りなおしました。私は数年前に「ブルターニュの農業と地下水汚染」という新聞記事を書いたことがあります。肥料の使いすぎで硝酸塩が地下水を汚染していると問題になったのです。「水道水は身体に有害」とミネラルウオーターを飲み続けている男性に8年分のミネラルウオーター代金、7550ユーロ(125万円)を支払うよう裁判所が給水公社に言い渡したというものでした。またレンヌ市役所主催の「いかに水源を守るか」というツアーに参加して、低農薬、低肥料農業を実施している農家を訪ねました。それからブルターニュのミネラルウオーターの工場を見学したこともあります。
さてGuérande ゲランド(ブレイス語でGwenrann 、ガロ語でGéraundd ) 周辺の浜辺で天然塩づくりがはじまったのは紀元前のこと。それから2000年以上の歴史があります。中世にはヨーロッパ全域に輸出をしていましたし、フランス革命前にはSel de Guérande ゲランドの塩は国内需要の50%を占めるほどに発展していたのです。ブルターニュの人々はゲランドの塩とともに生きてきたのです。
ところが第二次大戦後、1960年代にはいると大がかりなリゾート開発がはじまりました。隣村ともいえるLa Baule ラ・ボールの海岸には高級ホテルやマンションが立ち並びました。ブルターニュに行って間もないころ友人から「ラ・ボールは日本でも知られているわよね」とたずねられました。「全く聞いたことがない」と答えると「南仏のニースやカンヌくらい有名な観光地なのに」というので驚きました。9キロもの美しい砂浜があるのです。
その次にマリーナ計画が持ち上がりました。これが実現すれば塩田は消滅してしまいます。ただちに反対運動が開始されました。すでに住宅分譲の建築認可がおり、入居者リストまでできていました。結局粘り強い運動とオイルショックの余波で計画は実行されませんでした。その後ゲランドは「エコロジー・動植物自然保護地区」にも登録されました。
こうして守り抜いた塩田では昔ながらのやり方で天然塩がつくられています。海のミネラルがたっぷりと含まれていますので毎日使えば健康にもようのです。またたとえば南仏Camargue カマルグの塩と比較すると塩辛くありません。料理やお菓子に最適です。私が普段使っているのは左から2番目のあら塩です。1番左はFleur de Sel 塩の花と呼ばれる細かな白い結晶を手作業で収穫したもので、最後に味を調えるために使います。
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