赤ずきんちゃんとガレットとパン
夜寝る前に松原秀一さんのフランスことば事典 (講談社学術文庫 )を読んでいました。知り合いからいただいた数十冊の本の中の一冊です。語学が得意なこの方は赤ペンでたくさん印をつけていて、なるほどなどと考えながら読んでいるのです。ケルト語、ラテン語、ギリシャ語などが中世フランス語から現代フランス語にと変化してゆく様がとてもおもしろいです。特に中世フランス文学の引用は興味深いものばかりです。
さて皆さん、”Le Petit Chaperon rouge” 赤ずきんちゃんのお話を覚えているでしょうか。Charles Perrault シャルル・ペローが1697年に出版した童話で、森に住むおばあさんのところにお使いに行った赤ずきんちゃんがおばあさんの振りをした狼に食べられてしまうという話でした。
Un jour sa mère, ayant cuit et fait des galettes, lui dit : "Va voir comme se porte ta mère−grand, car onm'a dit qu'elle était malade, porte−lui une galette et ce petit pot de beurre."
ある日、おかあさんはパンのついでに焼き菓子[ガレット]を焼いてから、赤ずきんちゃんに言いました。「おばあちゃんが、ご病気だそうよ。どんな具合だか見ておいで。ガレットとこのバターの壼をもってお行きなさい」 完訳 ペロー童話集 (岩波文庫)
ここで下線を引いたdes galettes ガレットですが、どんなものを想像するでしょうか。ブルターニュではおなじみのそば粉をクレープ状に焼いたもの、あるいはちょっと分厚いバターたっぷりのクッキーでしょうか。どちらにしても新倉朗子さんが翻訳しているようにお菓子を想像してしまいますが、松原秀一さんは「イーストを入れずに焼いた固いパンgaletteのようなものもパンといっていた。パンは自分の家で焼いたcuireので、パンを焼くかまどに火を入れる日にこのガレットを作る習慣があった」と説明しています。
この説明を読んで改めて文章を読むと、固いパンとバターを持ってお見舞いに行ったのだと素直に理解できます。でもいちどこのフレーズが気にかかりはじめると、おばあさんというのは何歳だったのだろう(若く結婚していれば40歳くらい?)とか、病気なのに固いガレットとバターなんて食べられるのかといろんな疑問が浮かんできます。日本なら病人にはさっぱりした「おかゆに梅干」と考えますが、病気のときに精をつけるため貴重なバターを持っていったのだと解釈することも可能ですし、そう考えるときりがありません。
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